講評:松原利巳氏
総評
今年3年目を迎えた京都学生演劇祭を、昨年以上に楽しませてもらった。会場が立誠小学校にかわり、雰囲気のある古い小学校の建物もタイムスリップしたようでよかったが、楽しめた大きな要因は作品のレベルが上がってきたことと、バラエティ豊かになったことが挙げられる。その中でアイドル的な要素を持った飴玉エレナの山西竜矢さんが投票で1位を獲得したのは、なるほどと納得できる。演劇は芸能の世界である以上、人気者は必要なのだ。彼らしい一人芝居のスタイルをスキルアップすることで、その人気を拡大していって欲しいと願う。審査委員特別賞の劇団月光斜は集団で創り出す演劇の力に圧倒された。そのパワフルさで京都の学生演劇界を牽引して欲しいという思いも込めて賞を贈った。ヲサガリは、実は今年、僕が一番におした劇団だった。劇団月光斜の後に見たせいか、パワフルさとは対照的な、力みのないストレートな演技で、誠実なメッセージがひたひたと心に染み込んできた。演劇の幅として、こういう作品がでてきたことが、今年の演劇祭の収穫だと思う。
そのほかでは、オリジナル作品が多い中でイヨネスコをしっかりと上演したKAMELEONも、舞台美術の膨大な量でテーマを表現したことも含め特筆しておきたい。古典や既存の戯曲と格闘し自分たちの作品世界を構築するところがもっとあってもいいのではないかと思うからだ。
以上のピックアップした作品以外でも、今年は沢山のバラエティに富んだフレッシュな作品が出揃い、まさに「演劇のショーケース」を楽しませてもらった。
Aブロック
飴玉エレナ『転がる紳士たち』
まずセットのセンスがいいなと期待感がわく。舞台の中央に置かれた薄いグリーンの長椅子の背もたれの上に置かれた4色のボール。これが「喜怒哀楽」になる。一人で何役も演じ分ける一人芝居のスタイルには、ある種の芸が必要だ。高座に座ったままでも、話芸だけで何人もの登場人物を生き生きと演じ分ける落語のように。今回、山西竜矢さんのセンスと才能に大きな期待が集まったが、彼が目指す一人芝居の道はまだまだこれからだ。
演劇実験場下鴨劇場『宇宙の果て。』
物語は、唐突な男女の会話から始まる。一方的に告白して倒れる女。その訳の分からに話をウンウンと聞いている男の何とも言えない間がいい。女は繰り返し倒れ、フラッシュバックの様に場面が繰り返されながら物語がシュールに飛躍するのが面白い。例えば「ボサノバで踊り狂う」なんてありえないといいながら、本当に踊り狂ってみせたりするのが可笑しい。残念だったのは「病院オチ」だったこと。シュールのまま終わって欲しかった。
劇団蒲団座
『This is a pen の絶望 〜ミニミニ王国を封鎖せよ!〜』
昨年も異次元に迷い込むという作品だったが、今年も落書きにまつわる神隠し的都市伝説をたしかめようと、深夜の教室に忍び込んだ二人の女の子が、自分たちも神隠しにあって異次元に迷い込むという話。遊びをうまく使いダンスも交えながら面白おかしく異次元へと引張っていく勢いはあるが、時間のズレや同じ空間に異次元を存在させる演出には、少し無理があった。
Bブロック
劇団月光斜『僕と殺し屋とレインポップ』
主人公が不況のあおりを受けて失業した殺し屋という設定が面白い。その殺し屋もいかにも脂ぎって暑苦しく、幕開きから全開で突っ走る。そこに畳み掛けるように個性的な脇役たちのパワフルな演技も加わり、前半は膨大な熱量で押し切っていく力技に圧倒された。後半、いっぺんにロマンティックな展開になったのが気なるが、パワフルなダンスで盛り返し最後まで集団のエネルギーを存分に発揮した月光斜に脱帽である。
コロポックル企画『すぐ泣く』
病院の話である。しかし、それがわかると、いっぺんにドラマとしての興味がしぼんでいく。つまり不思議なこと、不条理なことが「病院の中の出来事」になってしまい、不思議でもなんでもない、当たり前のものになってしまうからだ。「病院オチ」は出来るだけさけてほしい。とはいえ力のある役者が「一風変わった不思議な物語」を展開してくのは好感がもてる。ヴァイオリンの生演奏もほかにはない特色だった。
虹色結社『はこにわ』
懐かしいアングラ風の臭いのある劇作である。芸術系大学らしい、視覚的に凝ったプロローグで「はこにわ」の文字を浮かび上がらせたアイディアは評価できるが、全体の時間バランスからいって、少々長い。やりたかったことはわかるが、本編に入る前にプロローグが長すぎるのはどうか。青春・ニキビのモチーフもうまく展開しないまま終わった感がある。
ヲサガリ『それからの子供』
仲良しの小六の男の子二人とクラスメイトの入院している女の子三人の話。男の子たちが自転車に取り付けた電飾を、ペダルをこいでイルミネーションのように光らせ、女の子を励まそうとする思いが素直に伝わってくる仕掛けがいい。力みなく演じられたシンプルなドラマに次第に引き込まれていく。最後に、めちゃくちゃに自転車をこぐ少年の熱い思いがイルミネーションの明々と輝く光となって客席に広がっていったのが印象的だった。
Cブロック
KAMELEON『新しい下宿人』
オジナル作品が多い中、イヨネスコの不条理劇をしっかりと演じたのは好感が持てる。今回の演劇祭では一番の舞台装置の量とカラフルさが際立った。何もない舞台に大小のカラフルな家具を積み上げ空間を埋め尽していき、最後には「新しい下宿人」も家具に埋もれ見えなくなって芝居は終わるのだが、実はパリの街全体が、その部屋のように家具で埋め尽くされているというオチも、僕にははっきりとイメージすることができた作品だった。
劇団テフノロG『空想世界の平均律』
インターネットを使ったコンピュータの対戦ゲームで遊ぶ人たちの話。仮想世界に自分たちが入り込みドラマが展開してくとういう設定だが、どうもリアリティというか説得力が弱い。登場人物像が平板だったせいだろうか。脚本にもうひとひねりがほしい。
劇団愉快犯『作り話』
奇妙な招待状で集められた6人の男女の過去が次第に明らかになるとう、アガサクリスティばりのミステリー仕立て。虚々実々のエピソードが連続し、言葉のズレで展開する中盤は笑いの渦に包まれるが、ゲストの登場でせっかく大きく膨らんだ笑いのエネルギーがいっぺんにしぼんだのはもったいない。結局、集められた6人はかつて同じ孤児院の仲間だったいというオチも、もっと早く気がついたのでは、と思えたのだが。
Dブロック
喀血劇場『わっしょい!南やばしろ町男根祭り』
昨年の京都学生演劇祭の中で、僕の一番は喀血劇場だった。脚本も演出もまとまっていて、僕の中ではダントツだったが、投票では2位で惜しくも1位を逃した。そういうわけで今年も一番期待していのが喀血劇場だったが、作品的には昨年と比べ散漫な感じである。もちろん脚本のモチーフや細部のリアリティは十分にあるし、力があることはわかるのだが、それだけにもう少し丁寧に作って欲しかった。とはいえ喀血劇場への期待は変わらない。
劇団立命芸術劇場『行き当たりばったり』
劇団の紹介に「リアリティを追求し本物に近い世界を舞台上に再現」と書いているとおり、あるアパートの一室を不動産屋と大家が、男子学生二人と社会人の男女に同時に契約してしまうことで起こるトラブルの話。実際にありそうな話だが、事件も事故も何も起こらず、ただ日常的な出来事が展開するだけで幕切れになると、えっこれで終わり?という気持ちになってしまう。演劇としてはもう少しひねりが欲しかった。
劇団紫『天使のはなし』
私小説的な作品だ。ある街の真ん中にそびえる鉄塔に天使がひっかかっている。ある日、主人公の男はその天使に話しかける。彼にしか見えないらしい天使との日常的な会話。人の良さそうな彼のもとに集まってくる奇妙な人々やバイト先の深夜のコンビニに出入りする人々との不思議な関係などをモノローグ的に語る語り口は、どこか現代の喪失感を漂わせていて興味深い作品だった。
Eブロック
コントユニットぱらどっくす『ノアのドロ舟』
コントユニットというだけに、コントで笑わせてくれるのかと思っていたのだが、その予想は大きく外れた。故意かどうか、前半は、スベリまくって全く笑えないのだ。「社会を皮肉る」ためには、笑いが不可欠。どうコメントしていいか思いつかないまま終わってしまった。
同志社小劇場『国道X号線、Y字路』
幕開きは、一見、何の関係もない「あまりうまくいってない人々」が、自分たちの境遇を語り始める。バラバラに見えた登場人物たちは、やがてある時刻、ある場所に向かって次第に動き出す。ジグソーパズルのピースが一つ一つはめ込まれていくようなサスペンス仕立ての物語を5人の役者でキッチリと組み立てていく力のある劇団だが、うまくサスペンスドラマが完成した後に、演劇として何を伝えたかったのかという疑問が残った。
吉田寮しばい部『きずあと』
トンボの羽が透明だから描けないという少年に、それでも描くことを強制する教師。日本海のある港町でテレビ局の番組プロデューサーのいいなりにヤラセをする漁師。都会と田舎、少年と漁師。失われたものに対するノスタルジーを感じさせる作品だが、少し図式的になってしまったのではないか。ハの字に置かれた綺麗な模様の平均台のような装置の上をバランスを取りながら歩く演出は、危うさと不安感を象徴して面白かった。
松原利巳(まつばら としみ) 1951年、北海道生まれ
1970年代、大阪の情報誌「プレイガイドジャーナル」で演劇を担当、黒テント、状況劇場、つかこうへい事務所などの大阪公演をプロデュース。80年代にはオレンジルーム演劇祭、「キャビン小劇場」「キャビン戯曲賞」や「パーキージーンシアター」を企画制作。85年からは扇町ミュージアムスクエア企画委員、近鉄劇場・近鉄小劇場・近鉄アート館のプロデューサーも兼務。その後、神戸アートビレッジセンター、シアターBRAVA!の立ち上げに参加。現在、大阪市立芸術創造館副館長、咲くやこの花芸術祭総合プロデューサー。
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