講評:松原利巳 氏
総評
京都学生演劇祭を見るのは今年で三回目。毎回、新しい才能と出会うのを楽しみにしている。そんな期待を胸に、最初にAブロックを見たのだが、すっかり劇団西一風に圧倒されてしまった。まだ最初のブロックだったにもかかわらず、台本・演出、演技、装置など総合的にみても、この劇団の完成度の高さは、群を抜いていて、今回の一位はここだな、と確信するものがあった。
審査会では、まず劇団西一風、劇団ACT、コントユニット左京区ダバダバ、ルサンチカ、スーパーマツモトの5劇団に絞り、議論した。もちろん西一風は全員の評価は非常に高かったが、審査員特別賞としては、完成度というよりは、何か新しいユニークな視点をもっていて、なおかつ、これからの京都学生演劇界の刺激となり、牽引していってくれるようなところに渡したいということで、最終的に、コントユニット左京区ダバダバに決定した。
その他、個人的には劇団ACTのサイコドラマ風作品やウトイペンコの実験的な作品が記憶に残った。また、前回もそうだったが、ヲサガリの“小学生シリーズ”はピュアで好きな作品である。
個人賞=竹本てん(劇団月光斜TeamBKC)、中野愛子(コントユニット左京区ダバダバ)
A-1 第三劇場
五角形のテーブルの上でルービックキューブの六面を素早く完成させるオープニングに少し期待を持ったが、悪人ダンをめぐる尋問?問診?の場面が始まると、また病院ものかとかと少々食傷ぎみなった。かつての TVヒーローたちが登場し、主役の不在や不安を嘆き、 絶対的ヒーローを待望するというテーマは、現代社会への問題提起として、頭では理解できるものの、どうもスーッと入ってこない。本当のところ書きたかったことは何なのか、 深いところで切実性のあるテーマは伝わってこなかった。
A-2 劇団トポス
「遠い未来」という設定なのに、いきなりガラケーの携帯が出てきたのでビックリ。あまりにも無防備といおうか。ストーリーはシンプルなので、別段、育児ロボットや未来の設定にしなくてもよかったのではないか。今回初出場で学外公演も初めてとのこと。全体として力不足の感じだが、少なくとも育児ロボットと少年との温かい心の交流はストレートに伝わってきたので、それを生かすような作品の作り方をしていった方がいいと思う。新 たな挑戦に期待したい。
A-3 劇団西一風
堂々の一位である。まずはキャッチーなタイトルがいい。それに合わせて会場準備中に舞台奥に吊るされた特大の白いパンツのインパクトも心憎い演出だ。完璧とも思える無駄のない台本の構成、演出、演技力は圧倒的であるが、決して底抜けに明るい作品というわけではない。青春の猛り狂ったように疾走する性のエネルギーを、社会の暗部へと誘っていく展開は、どこか陰りがある。それが岡本昌也の世界観なのだろう。「あたしが娼婦になったら」と一人言のように淡々と語る幕切れが心に残った。
完成度の高い、しかも毒気のあるエンターテイメントの旗手として、これからどんな作品を作っていくのか先が楽しみな才能の出現である。今回の京都学生演劇祭の大きな収穫だった。
B-1 劇団愉快犯
免許証を取得するためのスクールが舞台。これが普通の免許の教習所ではない。なぜなら教鞭をとっている教官の背中に羽が生えているからだ。この愛のキューピットの養成所という設定は面白いアイディアだし、ラブコメデューでハッピーエンドだったのも悪くないが、次々に連発するギャグが、どうも爆笑とまではいかず、不完全燃焼で終わってしまったのは残念。
B-2 ナマモノなのでお早めにお召し上がりください。
この作品はどう評したらいいのだろうか。劇団名からして、ある種の違和感を狙っている感じであるが、長い間の多い、全体像を捉える糸口すらみつからない作品だった。「僕は久しぶりに五年前に出した本を読むことにした」という思わせぶりなセリフから始まり、同じセリフが何度か繰り返されたが、その本の内容も、姉と弟との関係、男との関係も不明瞭のまま終演。 舞台に登場した人形たちも謎のままだった。もう少し、見る側に謎を解くキーワードを渡してほしかった。
B-3 劇団月光斜TeamBKC
自殺した女友達の敵をうつため、神社の境内でワラ人形に呪いをかけようとやってきた女が、神主やラッパーと出会い、やがて自殺した本当の理由を知ってくという内容。前半は少々だるい。後半は展開もスピーディーになり、俄然面白くなりかけるが、コンビニの店長との不倫関係を悩んだ末に自殺したという三面記事的な理由が明らかになると、前半で醸成した「不思議」な空気がいっぺんに色あせてしまった。自殺した女友達役で「不思議」な魅力を漂わせた竹本てんが印象に残ったのだが。
C-1 劇団ACT
サイコドラマ風の脚本が面白い。大学のゼミ室で自分が見た不思議な夢の話からドラマが始まる。それは公園で遭遇した不思議な光景。大勢の何かが誰かを大きな声でヤジっていて、そのヤジっている側にいたはずの自分が、いつの間にかヤジられる側にいた、という変な夢。いかにも暗示的な導入部だ。かつていじめられたり、逆にいじめに加わった記憶を語り、被害者と加害者が表裏一体のことや、個人を規定する絶対的な記号である名前を変えられた時の混乱などなど、非常に興味深い仕掛けを張り巡らせている。この作者のほ かの作品も見てみたくなった。
C-2 劇団S.F.P.
いじめでひきこもりになった少女の部屋に、死んだ彼女の恋人が「彼女を守るため」と幽霊になって現れ、それを追って死神もやってくるという三人のお芝居。台本にいじめや母親との確執の悩みを織り込んでいるが、もう一つ説得力がない。演技の点では、女性だけの劇団の限界もあるが、逆に女性劇団にしかできないやり方があるはずだ。かつて東京の青い鳥や自転車キンクリートという劇団が女性ならではの作品をつくっていた。是非、自分たちらしい作品の作り方を工夫してほしいとい。
C-3 ウトイペンコ
オープニングのコンテポラリー風ダンスにはじまり、まるでスラップステックコメディーのように、次から次へと場面を展開。主宰の柳澤友里亜が今、やってみたいことを山盛り舞台の上にのせた、とでもいおうか。それも全体を完結させる方向ではなく、思いついたアイディアをパッチワークのようにつなぎ、とにかく最後まで行くぞ、という強い意思でつくった作品に思えた。こういう作品もライブ感があって面白い。もちろん完成度という意味ではまだまだだが、潔くやりきった点は好感が持てる。
D-1 劇団立命芸術劇場
出会う時はいつも雨と何度も舞台の上ですれ違う「モデル」と「キャバ嬢」。とにかく、この二人が出会うまでの時間が長い。ここまで何回もやらなくていいのではないか。それよりも大事な「モデル」と「キャバ嬢」という役を裏付けるリアリティが見えてこない。そ のリアリティがしっかり作られなければ、彼女たちに絡んでくる、カメラマンやサラリーマンとの出来事も、ただの絵空事のように薄っぺらなものになってしまう。何を見せるのか、その戦略が必要だ。脚本も、演技もその辺を大事に深めて欲しい。
D-2 コントユニット左京区ダバダバ
はじめから犯人がわかっていながら、延々と犯人探しをするという奇想天外のコメディ。 あるお屋敷でゴリラの死体が発見され、メイドが「私が殺しました」と自白したにも関わらず、そこに現れた刑事と名探偵が、なんともわけのわからない論理によって、ますます謎が深まり、やがて遥か遠い宇宙へ飛び出していくという予想を超えた展開には、正直、驚いた。2001 年宇宙の旅や天地創造、スター・ウォーズ、猿の惑星などのネタをスピーディーに織り込み、最後は、最初のゴリラが殺されたシーンに戻って、なるほどと思わせるあたりが秀逸である。メイド役・中野愛子がキュートで魅力的だったことも付け加えておきたい。
D-3 ルサンチカ
芸術系大学なので当然ではあるが舞台美術の見せ方や仕掛け、衣装などは一番。また演技の濃さという点でも、寺山修司作品のアングラ的な匂いをプンプンさせた舞台だった。開演前に客席に配布したチラシには、あらかじめ上演時間が伸びるとことへのお詫びなど、 わざわざ説明しなくもいい内容が書かれており、確信犯的な手法というか、きわめてあざとい。終演後、全ての装置が取り払われた後の何もなくなった舞台に、役者が一人立ちつづけるというのも、寺山修司的な実験演劇手法として、僕には懐かしかった。
E-1 ヲサガリ
小学生の男の子二人のお話。小学校のプレハブの教室に、13 番目の転校生がやってくる。 お父さんはいわゆる転勤族で、よく転校しているらしい。またすぐに転校するかもしれないので、友達とあまり仲良くならないようにしようと思っていたのに、妙に親しくしてくる奴がいて、そいつのペースにはまっていつの間にか親しくなってしまう。そいつは鍵っ子らしく、みんなが帰ったあとも一人で遊んでいることが多い。教室での二人はどっちが先に人気者になるか競争しているが、この遊びがなかなか面白い。なんだか、こちらも思い出の小学生に戻ってく感じがする。そんな、いつも忘れていた物を思い出させてくれる小川昌弘ワールドは、僕の好きな作品である。
E-2 スーパーマツモト
とある商店街のラーメン屋が舞台という、いかにも吉本新喜劇風の作品。それぞれ個性的な力のある役者が、ここまでやるか、とばかりの熱演は大いに評価したい。まず大阪では、これはやらないと思うが、さすが京都ならではだ。お決まりのヅッコケもかなりオーバーアクションで、こちらとしては少し引き気味だが、そんなことお構いなしに連発するヅッコケには参った。笑いは一生懸命さが大事。暑苦しいくらいのドタバタコメディを、これからもどんどん見せてほしい。
E-3 劇団蒲団座
「世にも奇妙な物語」や「笑うセールスマン」的な世界をねらったのだろうが、どうもしっくりこない。願いを何でも叶えてくれるという花を花屋で買った風采の上がらないバイト男が、バイト先の憧れの女性を射止めたいと、その花に願うのだが、実はその憧れの女性も同じ花を買っていて、最後にその女性からしっぺ返しを食らってしまうという結末。
しかし、この花を演じる女優たちの存在に違和感を覚えたのは僕だけだろうか。花たちの扱いにはもうひと工夫、必要である。
プロフィール
松原利巳(まつばら としみ) 1951年、北海道生まれ
1970年代、大阪の情報誌「プレイガイドジャーナル」で演劇を担当、黒テント、状況劇場、つかこうへい事務所などの大阪公演をプロデュース。80年代にはオレンジルーム演劇祭、「キャビン小劇場」「キャビン戯曲賞」や「パーキージーンシアター」を企画制作。85年からは扇町ミュージアムスクエア企画委員、近鉄劇場・近鉄小劇場・近鉄アート館のプロデューサーも兼務。その後、神戸アートビレッジセンター、シアターBRAVA!の立ち上げに参加。現在、咲くやこの花芸術祭総合プロデューサー、近鉄アート館アドバイザー。
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